メーカーでモノづくりをしていると重要な要素のひとつが「コスト」になります。コストをつくりあげることは、モノをつくりあげることと同じくらい難しく、そして大切なことになります。良い商品を最高のコストでお客様に提供することがメーカーの使命です。その時、「規模の経済性」という考え方がとても大切になります。
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「規模の経済性」って何?
規模の経済性とは、
「事業規模が大きくなることで製品ひとつあたりのコストが低減すること」です。
スケールメリットと言われることもあります。
下図をイメージすると分かりやすいと思います。
横軸は、年間の生産量で右へいくほど多くなります。縦軸は、1つの製品をつくるにあたってのコストになります。コストは固定費と変動費に分けられます。図のように右へいけばいくほど、つまり年間の生産量が多くなればなるほど、1つの製品をつくるコストはどんどん安くなっていきます。事業拡大やM&Aをしたときのコスト低減を見積もったり、競合のコストを分析するなど、コスト戦略を立案するときにはこの「規模の経済性」を考える必要があります。
そもそも経済性とは何でしょうか?
例えば、A社とB社が2社とも1000円の商品を販売していたとします。同じ数量を売り上げた場合、もうけは同じようにみえますが、仮にA社が200円のコストで製品をつくっており、B社が500円のコストでつくっていたらどうでしょうか?A社のほうが利益が多くなりますよね。このようにコストを低減することは競争優位性を築くことにつながります。もうけにつながるコスト低減の仕組みを事業の経済性と言います。経済性を高めるためのアプローチはいくつかありますが、そのうちのひとつが「規模の経済性」になります。
「規模の経済性」が生じる要因は何か?
規模の経済性が生じる要因は主に2つあります。
①固定費の分散
②変動費、特に仕入れボリュームディスカウントによる低減
固定費とは、家賃や設備など製品を作っても作らなくても発生する費用のことです。生産量が多ければ固定費は分散されるので、1つの製品あたりにかかる固定費は少なくなります。例えば、製薬業界が顕著ですが膨大な研究開発費がかかります。販売量が小さければ製品ひとつあたりの研究開発費が高くなってしまいます。そのため、製薬業界ではM&Aが活発になり事業規模を大きくしようとする動きが多くなります。
変動費とは、製品の生産量に応じて変動する費用です。その中でも材料や部材など仕入れコストは製造する数が多い会社が有利です。多く購入することにより買い手の交渉力が増し、安く仕入れられる可能性が高まります。
業種によって、固定費・変動費のどちらにより規模の経済性が働くかは異なりますが、上記のように生産量が増えることで固定費と変動費共に抑えることができます。
しかし、規模の経済性はずっと高まり続けるとは限りません。「規模の不経済」が生じてしまうこともあります。「規模の不経済」とは、下図のように規模が大きくなることによるコスト低減以上に、例えばコミュニケーションや調整の手間暇がかかってしまい、逆にコストが増してしまうことです。全社で共有できる固定費が少なく、距離的にも離れている場所に立地するサービス業などで起きやすい現象となっています。
「規模の経済性」のコツ
●稼働率が上昇しても、1製品あたりの固定費は低減します
例えば、1日10個しか製造していなかった工場が、稼働率をあげ1日15個製造するようになったら、1製品あたりの固定費は削減します。
●コスト比較をするときには、規模の経済性の影響と稼働率の上昇の影響なのか注意してみる必要がある
例えば、A社に比べてB社のほうが売上規模が大きかったとしても、A社の稼働率がB社に比べて圧倒的に高ければ規模の経済性がきいてB社のほうがコスト優位だとは言い切れなくなります。
●同じ固定費でも広告費や研究開発費など全社や事業部全体で共有できる固定費は、分散できるので規模の経済性が大きく働きます。一方、個別の店舗など狭い範囲に固有の固定費では規模の経済性は効きにくくなります。この場合は、むしろ稼働率を高めることのほうが重要になります。固定費に分類できるからといってひとまとめにせずに、どの範囲まで共有ができ規模の経済性の効果が働くのかしっかり見極めることが必要です。
以上のように、どんな場面に規模の経済性の効果が働くのかをきちんと理解して、見極めていく必要があります。
メーカーでの経験を通じて
メーカーで商品開発をしていると、設計やデザインなどのモノづくりはもちろんですが、それと同じくらいコストをどう作っていくかが重要な仕事になります。どのようなお客様に、どのような価値の商品を、どんなコストで提供したいかが企画として決まるため、その実現に向けて価値の作り込みとコストの作り込みの両輪が必要になります。商品を設計やデザインするときに、同じタイミングでコストを意識する必要があります。価値とコストはトレードオフの関係になることが多く、見極めが必要なこともありますが、価値を落とさずにコストを実現できるかが、開発マンの良し悪しを左右するスキルになります。
また、新商品は売れるか売れないか分からないことが多いです。はじめは、売れるか分からないため少ないロットで生産をして、その場合コストが高くなります。つまり利益があまり出ないですが、在庫するリスクを考えてそのような判断をすることがあります。しかし、その後売れてくると、生産ロットが大きくなりコストが安くなって利益が多く出せるように育つこともあります。このように発売する直後のコストだけではなく、その後の動向を見ながらコストを考えて、その商品はライフサイクル内でもうけを生むことができる商品なのかをきちんと判断しないといけません。規模の経済性を理解しながら、または経営側にも理解を促しながらコスト戦略をきちんと作っていくことも開発マンの重要な仕事です。
まとめ
規模の経済性を考えることは、メーカーとして戦っていくためにとても重要な視点です。特にコストリーダーシップ戦略をとる会社の動きを見ていると、明らかにイニシャルでは利益がほとんど出ていないと思われる販売コストで勝負をしかけてきたりします。販売コストが安いため、顧客に受け入れられ次第に販売数量が増加します。販売数量が増加すると規模の経済性により、コストを安く作ることができ利益を生み出してきます。中長期を見据えてそれを戦略としているのです。これは会社としての戦い方、つまり戦略の部分ですので他の要素も加わっていますが、このように規模の経済性をうまく活用しながら戦略を構築していくことがメーカーとして非常に重要なことになります。
自社においてはどのような規模の経済性が働くか、何が最も効きそうか、そしてどれくらいのインパクトがあるか、具体的に内容および数字を置きながら考えていくことが重要です。
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