「ネゴシエーション」という言葉を聞くと何を思い浮かべますか?
企業買収のための交渉、弁護士を立てて揉め事に関する交渉、プロスポーツ選手の契約金の交渉など、ものすごく大きな事柄をイメージする人も多いと思います。しかし、ネゴシエーションつまり交渉は私たちの身の回りでそして身近なところでも多く発生しています。
今から友達みんと遊びに行くけどどこに行きたい?あるいは夕食には何を食べに行く?そんなときに意見が食い違ったとします。そのようなシーンでも、このネゴシエーションスキルというのは活かされるのです。
Contents
「ネゴシエーション(交渉)」の定義/意味は?
「交渉」という言葉を聞くと前段でお話したようなことをイメージして、交渉とは「限られた、特別なシーンで行われること」「専門的な人が行うこと」と思われがちです。しかし、そのような場面だけではなく、日常のビジネスにおいても良くあります。例えば、違う部署の人に仕事を依頼するとき、上司と目標設定をするとき、お客様からのクレームに応対する場合など、職種によって色々と違いはあると思いますが、身近な業務においても「交渉」ということは発生しているのです。
ここで交渉とは何か?を整理したいと思います。一般的には、「利害関係のある者が、お互いの意見、要求を主張して、最終的な妥結点に到達するまでのプロセス」と捉えられます。また、交渉とは限られた立場の人のものではなく、多くの人にとって日常から触れる機会があるものです。
交渉とはこのようなことと理解してもらった次に、ネゴシエーション(交渉)スキルをつけることはどのようなメリットがあるのでしょうか!?
●所属する組織にとって
・交渉から得られる価値を最大化することができる
・交渉の過程から得られる組織の印象の向上につながる
●ビジネスパーソン個人にとって
・交渉をうまく進めた実績や評判は自分の立場を向上させる
・業界や立場を問わない個人のスキルとなる
というようにネゴシエーションスキルを持つことは大きな意義があることが分かると思います。
ネゴシエーション(交渉)のときの心構えについて
●交渉とは何か?の捉え方
ついつい交渉とは、どちらがどこまで譲るかのせめぎ合いであるとか、いかにして自分に有利な結果を導くかの腕の見せ処だと思ってしまいがちです。交渉とは、そうではなく「両者にとってWin-Winとなることができるはずだ」「交渉を通じて、お互いが得られることを最大化しよう」そのように捉えることが必要です。
●交渉のときの心構え
優れた交渉者には共通する4つの心構えがあると言われています。
①事前準備の徹底
交渉を構造的なものと捉え、可能な範囲で事前に準備を徹底する。
②目標を高く設定する
交渉においては個人ではなく組織を背負っています。謙虚であることは美徳とはなりません。安易な妥協は禁物とういことです。そして、交渉とは問題解決のために相手と行う共同作業と捉えましょう。
③相手の話を傾聴する
短期的に相手をやり込めたとしても長い目でみると得をしないことがあります。交渉の構造を理解するためにも傾聴が重要です。
④誠実であること
交渉はかけひき的な部分もあります。しかし、短期的に相手をだますことができても決して得はしません。約束を守る、嘘はつかない、そのような誠実さは重要です。交渉のかけひきと誠実さは両立できます。
交渉で押さえておきたいポイント&コツ
交渉前に状況を整理する。
●関係者は誰か?
大事なことは意思決定するのは誰か?関係者同士はどのような関係か?(個人的な親しさも含む)これをおさえましょう。
●関係者の利害と関心は何か?
関係者が誰か?を把握したら、各関係者が何のために交渉をしようとしているのかを理解する必要があります。関係者が利害関心を持つ内容の中に双方が関心を持っている共通の事柄つまり「論点」が存在します。その論点を把握することが重要です。
上記を把握した上で、その交渉で関係者がどのくらいの価値を得たいと思っているかを構造的に知るための概念として3つの考え方があります。
①BATNA(Best Alternative To Negotiated Agreement)バトナ
交渉で合意が成立しない場合の最善の策という意味です。その交渉において最悪の場合、自分としての妥協できる点と言えば分かりやすいと思います。これは交渉の相手側にも存在します。つまり自分のBATNAと相手のBATNAが存在します。
②留保価値(Reservation Value)
これを下回ると絶対に交渉で妥結しないという最低条件をさしています。こちらも同様に自分の留保価値と相手の留保価値が存在します。
③ZOPA(Zone Of Possible Agreement)ゾーパ
これは交渉が妥結する可能性がある範囲ということをさしています。
この3つを簡単に図式化すると下図のようになります。
交渉を具体的に進めていくとこの3つが浮かび上がってきます。逆に言うと浮かび上がらせる交渉が必要です。その構造を理解しながら関係者と合意点を探っていくのが交渉になります。この3つは簡単なようで非常に奥深いです。交渉にのぞむときには頭に入れておきましょう。
次に、実際に交渉においてのコツをご説明します。
●相手のBATNAが何か?を探ることが必要。ただし、これは確実なことまでは分からない推測であることが多いですが、交渉の過程である程度推測していくことが可能です。相手のBATNAを読むことができれば、交渉をどこで妥結させるかが分かります。
●自分の交渉力を高めるためには、自分のBATNAを高めること必要です。上記とは逆に相手は自分のBATNAを読んできます。決して嘘をつくわけではないですが、この交渉で合意されなくても最善の策を持っているこの程度持っているのだな、ということは交渉で相手に伝わります。自分のBATNAを高めることは交渉力に直結します。
●相手のBATNA次第で、目標値とアンカーを決めることが重要です(下図も参照)。自分にはBATBNAがあり、相手のBATNAを読みます。するとZOPAが分かってきます。そこでZOPAの範囲内でここが目標値(交渉者が妥結点として目座す値)かなというところを定めます。目標値を定める上では相場・前例・常識・法令なども参考になります。
その上で次に、あくまでも相手のBATNAは推測値でしかないので、探りを入れるためにもZOPAを超えた目標値+αの点で切り出すことが交渉ではよくあります。この行為をアンカーリングと言い、そのようにして示した点をアンカー(最初の言い値:その後の譲歩分をあらかじめおりこみ済みの数値)と言います。このやりとり(交渉を有利に進めるためのかけひき)を繰り返すことで目標値または目標値よりもアンカーよりのポイントで妥結するように交渉を進めます。
メーカーでの経験を通じて
これはメーカーのみならずですが、ビジネスを進める上で社内社外共に交渉というシーンはとても多いです。メーカーでモノづくりをしていると、特にコスト交渉ですね。材料や部材の調達、ときには製品としてのコストなど様々なコスト交渉があります。この時は上述した構造を意識しながらうまく交渉を進めていくことが重要です。目標値・アンカーという話がありましたが、妥結点を探る交渉では1度2度のやり取りでは済まず、かなりの往復をしながら実際には妥結点を探っていきます。ここで良いクリエイターはきちんとこの構造を理解して交渉をしますが、人によっては交渉は大変な作業なので相手の言い値で終わってしまうことがあります。それではターゲットとしているコストに行きつかず、お客様に受容される価格で提供できずに売れない、または自社にとって利益の取れない商品となってしまいます。交渉力は良いクリエイターかを左右するスキルだと思います。
また、注意しないといけないのはクリエイターなどの開発職は時に材料メーカーや部材メーカーに対して強い交渉力を持つことがあります(相手は採用してもらいたいので)。その際の交渉として、無理難題を押し付けてWin-Winではない交渉をしてしまう人がいます。短期的にはそれで成果をあげられても、そのひずみはどこからかきてしまいます。長期的に見るとその交渉の妥結点は適切ではなかったということもあります。交渉という構造を理解し、交渉スキルを身に付けることは良いクリエイターとしてとても大切です。
まとめ
「交渉力」というスキルは、英語力やデザイン・設計スキルなどと違って目に見えにくいです。TOEICのように数値化はできないですし、デザインや図面などアウトプットを見て分かるようなものではありません。そのアウトプットを出す過程で必要なスキルになってきます。しかし、そのアウトプットに交渉力を用いて作られたモノなのかは、にじみ出てくるものです。このスペックをこの価格でどうやって実現したのだろう、この新規材料をこのスピードでどうやって研究開発したのだろう、その過程ではとてつもなく交渉力を必要としています。
ここで書いた交渉の構造はある程度理解すれば十分で、毎回この図式化したものにBATNAは何か?数字を置いてみて・・ということを決してするわけではありません。頭で理解しながら交渉を進めるのです。後は実践での経験がものを言います。相手は人です、状況もそれぞれに違います。場数の経験はとても重要で、どれだけ交渉力をつけられるかは、どれだけ修羅場をくぐってきたかにもよると思います。交渉力はマーケターにクリエタイーにとって、良いモノを生み出すためにとても重要なスキルです。
↓【思考】記事一覧はこちらから
≫≫≫トップページに戻る