何か新しいことをしようとしたり提案しようとすると、必ず現状維持でいいのではないかという声が聞こえてきます。そういった思考はなぜ起こるのでしょうか?
「考え方の偏り」について知り、その対策法について学びたい人、人の意識や組織改革を進めたいけど中々変わらないことについて悩んでいる人に是非読んで頂きたい内容となっています。
Contents
「現状維持バイアス」とは何か?例を使って解説
現状維持バイアスとは、
そこまで強い動機がない場合に変化に対する漠然とした恐れから、今のままでいいかと考えてしまうバイアス(考え方の偏り)のことです。
例えば、工場に勤めるAさんが紙で提出している作業日報をクラウドツールで作成するのはどうか?と上司に相談するとします。
Aさん:「クラウドツールを利用すればメンバーで情報共有もできるのでいいと思います」
上司:「でも、これまでずっと紙だったので慣れているし、新しいツールは覚えるのが大変で、効率的にはなると思うけど、今のままでいいのではないかな。」
「それに積みあがった作業日報ファイルを見ると、努力のあとが実感できて愛着もわいているしね。」
というようなシーンがあったとします。
上司は、新しいツールを利用することで業務が効率的になることは想像できています。しかし、実際に導入すると覚えるのが大変だから、今のままで良いというように現状維持を望んでいます。
このように変化に対する不安や恐れから今のままでいいかと考えてしまうのが、現状維持バイアスです。企業においては組織変革を妨げる原因になってしまいます。
「現状維持バイアス」のメカニズム
現在の状態から変化した姿や将来を想像したとします。
人は、変化した姿や将来には、不透明性や不確実性に対する不安を感じたり、あるかもしれないリスクを過大評価してしまう傾向があります。
一方、現在の状態のままでいると変わらないことへの居心地の良さがあります。また、現状維持のほうがリスクが低いと考えたり、今ある地位や特権など何かを失わなくて済むとも考えてしまいます。
このように、将来に対する不安が生じる現象が現状維持バイアスです。
そして、現状維持バイアスを発生させる要因のうちで大きなものが、授かり効果(保有効果)と損失回避です。
授かり効果(保有効果)
授かり効果は、自分がすでに持っているものを高く評価して手放したくないと考える傾向のことです。自分が持っているものを失うときは、手に入れるときの4~7倍の価値を感じるとされています。
ここで、先ほどのAさんと上司の会話を思い出してください。
上司:「それに積みあがった作業日報ファイルを見ると、努力のあとが実感できて愛着もわいているしね。」
ここで上司は、自分が保有している作業日報ファイルに愛着がわいてしまい手放したくないと考え現状維持を望んでいます。これが、授かり効果(保有効果)にあたります。
授かり効果への克服方法として、
失うという側面よりも、もしそれを持っていなかったとしたら、手に入れるためにいくら支払うかという側面に注目し、視点を変えて対処するのがいいです。
損失回避
人は不確実な状況の元では、得をする可能性よりも、確実な損失を回避することを重視する傾向を損失回避と言います。
例えば、
①無条件で1万円もらえる
②1/2の確率で2万円もらえる
どちらを選びますか?
多くの人が損失を回避する傾向により、①を選びます。①の無条件で得られるものが小さい場合、つまり②の不確実だけれど得られるものの期待値が①よりよほど大きいものでないと、人は新しい方向に動きにくいのです。
このように、授かり効果と損失回避は現状維持を望む考え方、つまり現状維持バイアスを生じさせる要因のうちで大きなものとなっています。先が見えない未来であっても、変わることのメリットがあると考えられる場合、現状維持にとどまっていては機会を逃してしまうことがあります。
現状維持バイアスを克服するコツ
現状維持バイアスに陥らないためのコツについて説明します。
●誰もがバイアスに陥る可能性があるということを理解する
●組織変化を進める立場のときは、変化に伴うリスクより、現状維持のデメリットを説くことが必要です
変化に伴うリスクのない変革はありません。自分自身や組織を変えないといけないとき、現状維持バイアスの存在を理解して、より良い選択・より良い将来が描けるようにしましょう!
メーカーでの経験を通じて
これはメーカーで特にということではなく、企業に勤めて組織になると必ずこの現状維持バイアスは発生します。人は基本的には変化を嫌い、居心地の良い現状を維持しようとします。新しいことをしようとする変革派と、それを阻んで現状を維持しようとする保守派に分かれます。これは、どちらが良い悪いということではありません。変革することが良いこともあれば、現状を維持することが良いというどちらの場合もあります。メリットとデメリットをきちんと把握した上で、判断すればよいことなのですが、変革することが良いと明らかに分かっていても阻むというずばり現状維持バイアスであることも存在します。その場合は、きちんと変革するリスクより現状維持のデメリットを説明して理解してもらうことが重要になります。
メーカーに勤めていると、自社で開発したことがない新しい商品や新規事業などを提案すると、現状維持を唱える人が出てきます。これは、どちらが正解ということではなく目的や判断基準の目線が合っていないということがほとんどです。なぜその新しい商品や新規事業にチャレンジするのか、リスクがあってもチャレンジしたい理由(目的)がそこにはあります。まず、そこから目線を合わせ意義を納得してもらうことから必要です。なぜなら、その目的を知らない場合、チャレンジしないほうが良いという理屈は様々な視点から語ることができるからです。
現状維持バイアスという言葉の意味を知り、克服方法を理解して変革に取り組むことは、変革を円滑に進めるためにもとても効果があると思います。
まとめ
ある経験が長くなったり、ある地位が長くなってくるとこの現状維持バイアスを生じさせてしまう可能性が高くなります。自分自身が現状維持バイアスに陥っているということは、本人も気づいていないことがほとんどだと思います。だからと言って、気づかせるためにこうだ!と変革を無理に推し進めるのではなく、きちんとコミュニケーションをとって理解してもらうというステップをはさむことが重要です。丁寧なコミュニケーションを取ると現状維持バイアスであることを理解してくれ、その後は円滑に進むということにつながります。
人である以上、全員に等しく現状維持バイアスは働くものだという理解をして、それに向き合ってきちんと克服していくことがとても大切です。
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